突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

イスタンブルのSADIK(サディー)

2か月ほど前からどこで会ったのか記憶にないイスタンブルトルコ人からメールが入るようになっていた。「3週間東京へ行くから会いたい」などと言う。東京でレストランなどをやっている知り合いのトルコ人に「こいつを知っているか?」と聞いてみたが知らないという。俺は去年、同じような連絡に対して「君は誰なんだ?」と返信し相手を怒らせたことがあったので今回は会ってみることにしたのである。
銀座の天國を指定し約束の時間に行くと奴はもう席に座っていた。


奴は立ち上がり弾ける笑顔で俺との「再会」を喜んでくれた。俺も「なんだ!君だったのか!!」という感じで握手をして座ったが、誰だかわからなかった。英語と日本語の混成言語でイスラム国の話やトルコとロシアの和解の真相などの会話をひとしきり交わした後、俺は「申し訳ないことを言うが、君はいったい誰なんだ?実は思い出せないんだ。」と言ってみた。奴は嫌な顔はしなかった。「僕はサディーですよ。イスタンブルの絨毯屋です。修、あなたは私の店に来たじゃないですか。」「イスタンブルのどこ?」「ブルーモスクの隣。ほら、王族やビルクリントンも来た…高級店ですよ!」
それでも俺は思い出せなかったが面倒なので「そうだそうだ!思い出したよ!」と大笑いなどもしながら肩を叩きあって再会を喜んでおいた。その後、この46歳のトルコ人が仕事で日本に来たことや日本人は人に優しいしだまさないし約束を守るし金持ちでも威張らない話や、イスタンブルから観光客が消えてしまった話やアメリカの中東政策の裏側やエルドアンの公務員追放を支持する民意など、たくさんの新鮮な話を聞くことができて楽しかった。そして、サディーは少なくとも悪い奴ではないことや、歴史に詳しく国際社会のいろいろなことにレベルの高い意見を持っていることなどがわかっていった。
子供のころ、父親はドイツ語をやれと言ったがサディーは日本語のほうが将来仕事に役立つと思い16歳で日本語学校へ入った。日本語はアルタイ系言語なのでトルコ語と共通点が多く日常会話習得に苦労はなかったそうだ。サディーの得意客は世界中にいて、たくさんの高級絨毯を運びながらヨーロッパ、アジア、アメリカの金持ちを渡り歩いている。日本には200回以上来ていると言っていた。
「ところで、6年前に一度店で会っただけなのになぜ今回俺に会おうとしたんだ?俺が金持ちじゃないことぐらいわかるだろ?」
「うん、修はそんなに金持ちじゃない。まあまあだ。でも、6年前に店に来た時の印象が強烈でいつか会おうと思っていたんだ。仕事も一緒にできるかもしれないし…。それに東京に来たら飯を奢ってやるから連絡しろ、と言ったじゃないか。あんたみたいな日本人にはあったことがないんだ。」
俺は嬉しかった。…商売ではなく、友達になりたいから遠いイスタンブルから俺に連絡をしたんだ。6年間も忘れずに…。
それに比べて、そう言われてもなおイスタンブルでのやり取りを思い出せない俺はなんという薄情者なのだろう。
人間関係の情の厚さはトルコ人の大きな特徴なのである。

銀座天國の後、サディーが1か月借りているという六本木グランドハイアット前のマンションの一室で絨毯を見せてもらった。シルクの2.3m×1.6mが50万。1m×0.7mが15万円。しっとりしていて滑らかなシルクの感触は抜群であり、俺はその上で泳いだりしてみた。サディーは泣きながら笑って撮影していた。最高級でかつ安いことを自慢していたが、実際に日本で買う三分の一くらいだろう。

俺は思わず小さいほうを購入した。もちろん15万では買わない。「天ぷら奢ったんだから半値にしろよ。」

その後、俺は家にいるとき、こいつの上に座っている。病みつきになる感触である。ネットで調べまくったが、同程度のものは大体35万〜45万だった。でかいほうは200万弱といったところだった。
サディーは友達なのか、巧妙な商売人なのか…後者なら俺を相手にするはずはない。