突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

六本木の善意に救われる

金曜の夜、六本木での会食を終えて帰宅した俺は、財布がないことに気づいたのだ。ああああああー。財布にはクレジットカードが5枚、銀行キャッシュカードが5枚、運転免許証、保険証、マンションのカードキー、立替払いの領収書たぶん10万くらい、現金たぶん7万くらいが入っていた。

俺は独り呻き声を上げへたり込んで両手で顔面を覆っていた。「あーこれは大変なことになった・・」2〜3回意味なく「ばかやろう!このあほんだらがっ!」などと空間に向かって怒鳴ったりしながら、禁煙中なのになぜかポケットに入っていたタバコに火をつけ深く吸い込んだりもした。(残りのタバコは水没させた)

 

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俺は10年近く前にトルコのイスタンブールで財布をすられて酷い目にあったことがあり、田園都市線で網棚にカバンを忘れてなくしたこと、西麻布で携帯を落としてなくしたことがあり、傘は買っても長くて2ヶ月で無くなるのだが、財布を落としたのは初めてだった。おれは、財布に入っていたものをすべて紙に書き出し、当然のこと店にも電話をしたが店にはないという。そして次に、届いていることはないだろうと思いながらも麻布警察に電話をしたのである。

警察署の担当者に財布の特徴や中身などを説明してしばらく待っていると担当が電話に戻ってきた。担当者の声色は沈んでおり、「黒坂さんが言った特徴で調べてみたんですけどねえ・・」という途中で、やはり届いているはずはないよな、と諦めかけた次の瞬間、担当警察官はポツポツ無表情に言い出したのである。

「黒坂さんが言っていた焦げ茶の長財布で、中に黒坂修さん名義の免許証やクレジットカードが入っているものが六本木交番に届いてるんですけどねえ・・」

俺は嬉しさに包まれながら、「あ、ありがとうございます!それは私の財布に違いないです!」というと警官は驚くべきことに「いや、まだわからないですよ。そうとは限りませんよ。」と言い「ええっ?どうして?黒坂名義のカードや免許証が何枚も入ってるんでしょ?」と言うと「そうですけれど、100%黒坂さんの財布とはまだ言えませんよ。たぶんそうですけどね。」と無表情に言い続けていた。その後、電話は財布がある六本木交番の警官に切り替わった。交番の警官は「財布の特徴を言いましょうか?」と言うので「えっ、それは私が言わないと私のものであると確認できないよね?」と返すと「あっ、そうか。」と言っていた。「お金は7万くらいです。」と言うと「お金は入ってませんねえ。抜き取られましたね。」と言っていた。

深夜0時前に、タクシーを呼び再び六本木に向かい俺は財布を取り戻した。中身をその場で点検すると、なんと現金も手付かずで入っていたのである。20代の警官は、「あれっ?入ってたかぁ。」などともぞもぞ言っていた。

深夜の六本木交番前は、目つきの悪い白人や黒人がたむろしていて、酔って気が大きくなってはしゃぐ若い女や男が行き交っていた。

こんなところで、よく財布が手付かずで交番に届けられたものである。交番警官に届けてくれた人について訊いたが、本人が名乗ることをしなかったのだと言う。

そんな善意の人が存在するのだ!

財布を落としたのは交番がある六本木交差点から400mは乃木坂寄りに離れている。そんな距離にもかかわらず届けてくれたのである。俺にはそんなことができるだろうか。他人の物に触れて400メートルも歩けば何かしらの不幸が降りかかる可能性だってあるやもしれず・・・。

どんな人なのだろうか。警官に、男?女?年恰好は?、と尋ねてみたが、本人が名乗りたくない以上はそれも答えられない、とのことだった。普段なら、「君らは、軽い雑談もできねえのか!」と言う場面だが、警官に世話になった今回は言うわけもなく、逆に深々と頭を下げて交番を後にしたのだった。

月並みだが、日本人の、日本社会の民度の高さを実感する出来事だった。