突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

マニラと土建屋




写真は今回の雑文とは直接関係しない。
マニラを訪れる旅行者の一位はやはり中国人である。世界人口の四人に一人は中国人であり、香港からは1時間半の近さであるので当然である。しかし二位以下は韓国人、インド人、アメリカ人であり、日本人は五位に甘んじている。ガイドによれば、かつては日本人様様であり、入れ墨丸出しのヤーさんも闊歩していたそうである。フィリピンには、博打、売春、麻薬、ピストル、それらの舞台となる店…ヤーさんが好きそうなものが揃っているのだ。そして、パトカーや警官が極めて少ないのもヤーさん好みだったのだろう。
俺はかつてヤーさんの成り立ちや構造に関する文献を読み漁り、ヤーさんの話が嫌いではないがそれはまたにする。
俺は今回、マニラど真ん中の歓楽街、エルミタにあるパビリオンホテルに宿泊した。従業員は極めて愛想がよく親切で施設もまずまずであった。洪水の中、一時ホテルは島となったが、水が入って来る様なことはなく、エントランスではガイドたちが「女どう?持ち帰りできるよ」「カラオケに女呼んでどう?たのしいよ」「ストリップいく?そのまま連れていけるよ」「ピストル撃ってみる?スカッとするよ」などと陽気に誘いにくる。マニラでは四つ星ホテルでもこうなのである。
ところで、俺はホテルで三回朝飯を食ったが、閑散としただだっ広いレストランでひときわどす黒さを発散させているおっさんが毎朝いた。後から聞いたが歳は71、角刈りを茶色に染め、身長155センチぐらいに対して四角い顔面の一辺は40センチという4頭身で体重は80キロ近く。短い腕には金時計。短パンに草履。浅黒い顔は松方弘樹を一重瞼にして正面から壁にぶつかり潰れた様な感じであり、日本語がろくにわからないフィリピン人ガイドをペコペコさせながら朝っぱらからでかい声で自信たっぷりにしゃべり続けている。何を威張ってしゃべっているのか。耳を澄ますと…
「俺なあ、昨日の晩、ここのカジノで30万やられたよ。まあそんなもんでやめといて女の子呼んでカラオケ行ったよ。もう薬やってもでかくなんねえから飲んで歌って触るだけよ。ひと月おきに来てっけどだいたい200万は負けるなあ。でもその金払って遊んでるわけよ。うひゃひゃ。」
この様な絵に描いたような下品な土建屋オヤジがまだいたのである。相手をしていたガイドによると、おっさんは名古屋近郊の街で土建屋の会長をやっているのだそうである。近郊というのはたぶん豊橋とか岡崎あたりだろう。月収は600万円だそうだ。ガイドはおっさんのお気に入りであり、やって来るたびに運転手をやり、おっさんの豪遊の手配をし、朝飯をおごってもらうのだそうだ。それにしても異国にやって来て、会長だ、600万円だとほざくような奴はろくなものではない。たぶん会長と言っても社長は娘婿であり、あとは事務員が2〜3人程度の建設ブローカーみたいなヤクザがらみの裏工作を得意とする人物だろう。いまどき田舎町の土建屋がまともにやってそんなに儲かるわけがないのである。
しかしなぜだろう。俺は心にもないことを言い合って空虚に笑い合う偽善者ばかりの世の中で、俗物根性をさらけ出して生きているこういうおっさんを心底嫌いにはなれないところがある。