突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

松山の陽射しと瀬戸内の霞


瀬戸内、大島の漁港内で食った七輪で焼く海鮮バーベキューは美味かった。声がでかいバーベキュー店の親父は、あちこちのテーブルをチェックしながら「エビはそう焼くんじゃねぇよ。頭が網の真ん中だ」などと言って若い客を怖がらせていた。俺は以前、牡蠣にあたって酷い目にあったことがあるので人の倍は焼くのである。親父は「もう焼けてんじゃねぇの」と言いに来たが、無視して焼き続けた。特に烏賊が美味かった。

大島から松山は約1時間半くらいだっただろうか。先月行った長崎もそうであったが、路面電車が走る街には独特の温かみがある。俺は東京杉並区天沼の生まれ育ちだが、ガキの頃、青梅街道の荻窪〜新宿間を路面電車が通っていたのを記憶している。当時はちんちん電車と呼ばれていた。昭和38年に廃線となった。松山の陽射しはキラキラと明るく、そこを路面電車が通り過ぎていく景色に、ガキの頃の東京の空気が蘇った気がした。



松山から15分であの道後温泉道後温泉本館の周囲は人でごった返していた。価値ある建築物であることはもちろんであるが、風呂に入るには70〜80mも並ぶことになる。松山出身の友人は、地元人は、あまりきれいとは言えない風呂に入ることはない、と言っていた。一般人は見学するだけの「皇室専用風呂」などとでかく掲げられているのもいただけなかった。
道後の宿がいっぱいだったので、松山郊外の鷹ノ子温泉という寂しい温泉場の田舎ホテルに一泊した。チェックインの時、「温泉の説明ないけどどうやってはいんのよ?」と訊いたが20歳くらいのフロントマンはアワアワと何を言っているのかわからなかった。

飛行機の時間まで松山港近くから再び瀬戸内海を眺めた。3000の島の中には、旧日本軍が毒ガスを製造していた島や平家の悲劇が刻まれた島や火葬場の島やキリシタンが流された島や海賊の要塞であった島もあるらしい。島々が連なりソフトフォーカスのカメラで眺めた様に静かに広がる瀬戸内海には、晴れた日にもうっすらと何かの霞がかかっていた。