突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

ふざけた街 恵比寿

恵比寿に5人で飲みに行ったのである。写真の汚い通路の向こうに人気のバーがあるということだったが満員で入れなかった。

恵比寿は東京カレンダーという雑誌の「好きな街」ランキングでは、2位の銀座3位の表参道を抑えて1位となっている。
37年前、大学4年のころ俺は夕方になると恵比寿の小さな飲み屋のシャッターを上げ、ひとりカウンターに入って、前夜の皿やグラスを洗い、水で薄めた悪どいビールを作り、水道水で満たしたニセミネラルウォーターのビンを並べたりして7時くらいからぽつぽつやってくる客をさばいていた。狭い客席はジャズピアノをやっていた無口な女が面倒を見て、酒も軽食もすべて俺が作って出すのだが、氷を丸く削るとか、そこらで売っているチーズ二切れを斜めに切って出すと多く見えるなどつまらんことを覚え、客のおやじどもとは関わらないようにしていた。店のオーナーは12歳くらい年上の3流ジャズボーカリストだったが、一晩5千円のバイト料金10日分を踏み倒して音信不通となった。
要するに、40年近く前は恵比寿なんて湿気の多い場末の混沌とした街だったのである。
しかし、恵比寿の街は変転し、東京一の人気エリアになった。

その日、一軒目は「初代」という白壁のしゃれた蕎麦屋だった。つまみの小品はどれも旨く、締めの蕎麦もなかなかだった。6時半から始まってはじめのうちは若いとぼけた感じの男の店員が面倒を見てくれた。ビールを飲み「響」のハイボールを5杯くらい飲んだあたりから25歳くらいの不愛想でテキパキものを言う角張った女に担当が代わった。女は普通に注文を取るが、目つきにスマイルはなく何でも自分が正しいと言わんばかりにカサカサしていた。同席していた49歳の常に腰の低い男は、いかに家で嫁に邪険にされているかを語り続けていたが、角張った女が登場してからやや勢いを失いつつあった。自宅と同じ空気の成分を吸い込んだのだろう。
そして、8時半に近づいたとき角張り女が刺々しくやってきた。「そろそろいいですか!もう次のお客さんが並んでますからっ!」・・・・・・・・
あああー、なんという悪い言い方なのだろうか。
驚きで食ったばかりの蕎麦を噴出しそうになるのを堪えるのがやっとであった。同席の女子二人も目を釣り上げながら憤慨していた。俺は失礼な店に出っくわすと激しく怒鳴りつけて紹介者を二度と行けなくすることを散々やってきたが、この日は女子がいたのでやめておいた。立ち上がり「そういう言い方はねぇよなぁ」と底物腰男に言いながら階段を降りると客が外まで並んでいた。マネジャーらしき男に「姉ちゃんの口の利き方がよくないよ」と言って通り過ぎると無視していた。こんな店を有難がって延々並んでいる客というのもおめでたい奴らである。
人気の恵比寿でも行列ができるおしゃれな割烹蕎麦屋「初代」はいい気になり世間を舐めた店であった。
次に、俺たち一行は「バーに行って飲み直そうぜ」ということになり近所の「トラック」という店の丸テーブルについた。トラックはたぶんタンノイ製のでかいスピーカーが設置され、60年代後半から80年代前半を中心とした洋楽アナログ盤を聴かせる店のようであった。俺は入った瞬間からカウンターの向こう側で仕切っているヒゲでメガネのいかにも音楽通を気取った50くらいの男の嫌な目つきに気づいていた。30ちょっとの小僧がブスッとしながら注文を取りにきて女子たちが迷っていると小僧は文句を言いそうなツラになっていた。俺はメーカーズマークのハイボールをやりながら、目の前に灰皿らしきものがあったのでタバコを指に挟みカウンターの向こう側のヒゲメガネに「タバコ吸っていいんだよね?」と声をかけた。ヒゲメガネはやや強張りながら「それタバコですよね。いいですよ。」と言うので「タバコに見えるだろ?」と返すと目をそらしていた。野郎はマリファナじゃないよな、とでも言いたかったのだろうか。
しばらく底物腰男と、以前書いた上越新幹線でヤクザ紛いと大げんかになった時、身を呈して殴り合いを止めてくれた60近い公家顔男の暗い家庭環境の話で静かに笑い合っていると、注文取りの小僧がやってきて「もう少し静かにお願いしますよ。うちは音楽の店なんで。」と言い放った。いくつかのテーブル客も普通に談笑していて我々が特にうるさいはずはないのだが、これはヒゲメガネの指示だったのだろう。何が音楽の店だ、あほんだらがっ!、音楽のわからない野卑な奴らが来たみたいに蔑んだ目を向けやがって、大したこともねえくせにふざけんな、と思いつつも女子がいるのでやめておいた。話は低物腰男の鬼嫁話から初老公家顔の不幸家庭話に中心が移っていったころ、また浅黒い小僧がやってきて「もう少し静かにしてください」と真顔で言い放った。俺はもうすぐ60、公家は58、低物腰は49、女子二人は・・・45以上なのである。(ごっごめん💦)30少しの小僧店員というものが大人客にものを言うときの口の利き方というものが一昔前まではあったはずである。俺たちは立ち上がり店を出た。目を伏せてありがとうとも言わないヒゲメガネに「うるさくして悪かったな。もう二度と来ねえから安心しとけ。」というと何かを言いかけていたが目を伏せた。
気分の悪い我々は、もう一軒ショットバーに行き、そこでも20歳くらいの店員に「シャンパンは高いですよ」などとなめた口を利かれていた。60にもなって息子より若い小僧に「シャンパンは高いですよ」などと言われなくてはいけないのはもしかすると俺もいけないのだろうか。年齢相応の威厳とか経験や教養が滲み出ていないとか、‥‥いやっ!俺より情けない風体の奴はいっぱいいるはずだ!俺は街の仕立て屋チェーンに裏から流されるゼニア生地のスーツを特別価格で購入し着ているし、ネクタイだってアウトレットのセールでアルマーニ中心である。散髪はQBだがメガネはアメリカの安売り通販からグッチを直輸入しているんだ!・・・えっ?そういう問題ではない?‥。
今回の恵比寿飲食ツアーでわかったことは、人気NO.1の街、恵比寿に巣くう店員どもには世間をなめ大人に対する敬意などみじんもない奴らが多いということだろう。3軒行って3軒とも大人をなめた生意気な店員どもだったのだからこれはただの偶然ではない。
世の中は確実に悪くなっている。国権の最高機関であるはずの国会ですら「ソンタク」だ「改竄」だ「セクハラ」だに終始し罵り合っているのだから若者が大人をバカにするのも無理はない。