突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

大雪とクルマ

1月22日は大雪だった。

東京は昼過ぎから激しく降り始め、これはヤバイと思って3時半には会社を出た。
この日クルマで出社していた俺は、ナビタイムで帰宅の道路状況を見ると、霞が関インターから東名川崎インターまで規制なしの所要時間30分と出ていた。「これはクルマで何とかなるぞっ!・・電車も大混乱だろう」・・ここで俺は大きなミスジャッジを犯したのである。4年前の大雪の日にもまだ元気だった母と娘を乗せて勝浦へ向かう途中と帰り道で立ち往生となり親切な人々に救ってもらった顛末を書いた。俺は物事を都合の良い方向へ解釈したり予想したりしすぎる癖があり裏目にでることも多い。そしてなかなか学習しない。

東名川崎インターまでは45分くらいはかかったがほぼ普通に走れたのであるが、インターを降りてすぐの上り坂に差し掛かると動けなくなったクルマが点在しパトカーが出動していた。「これは大変なことになるぞっ!」と思ったとき、俺の車のノーマルタイヤは空回りをはじめ道路中央でもがき始めたのである。すると若いお巡り3人が寄ってきて「後ろから押すからローに入れて―踏み込まないでねー」と言いながらやりはじめ何とか200mほど登り平坦地まで押し続ける超親切を見せてくれたのだった。普段、俺は交通違反で捕まるたびにお巡りを徹底して怒鳴りつけていることは何度か書いた。しかし、こういう時になると俺は「ほんと、どうもありがとうございます。もうしわけありません。さすがの体力ですねえ。どうもどうも・・」などと極端な低姿勢に激変する。押し終わったお巡りは「たくさん税金払ってくださいねー」などと言い「たくさん払いますよー、ありがとうございますっ!」と言い別れたが、カーブの先にある上り坂で再び動かなくなり苦闘を繰り返したが断念し、バックで坂を下ったりバックでUターンもしながら再びお巡りが集まっている坂の下エリアに向かって行ったのだった。その間、ブレーキを踏むと横滑りを起こすのでサイドブレーキで降りようとしたがそれでも停車せずに斜めに滑っていって止まっている何台かにぶつかりそうになったが何とかクリアしたのだが、一番ヤバかったのは停車しているパトカーに突っ込んでいく時だった。4人のお巡りが「わー!」と叫びながら俺のクルマに飛びつき何とか制止させてくれた。パトカーにぶつけてぼこぼこにすればもっと面白い話が書けたかもしれないと後から思ったが、この時は俺も窓を開けて「わーっ!!」と叫んでいた。そして、それでもなお親切なお巡り達は「ここのガソリンスタンドにしばらく停めさせてもらってレッカー呼んだほうがいいですよ」と言いながらスタンドまでクルマを押してくれたのだった。

しかし、このガソリンスタンドがひどかった。65歳位のおっさんと20歳位の兄ちゃんがやっていたが、ガソリンを50リットル入れて「レッカーを電話で手配するからそれまで停めさせてくれ」と事情を話しスペースの端に停車していた。保険屋の損保ジャパンのオペレーターにはなかなか繫がらず電池も10%を切り、繋がっても2度も切って30分以上待たされた挙句「5時間はかかりますがそれも保証はできません」などと言われ「それじゃあ保険の意味ないじゃないのっ、もういいよ。」と言うとガッチャッという音を立てて切られる始末だった。みなさんも損保ジャパンはもう一つ入っているあいおい損保よりもはるかに感じが悪いので気を付けていただきたい。
そんな中で、スタンドの兄ちゃんがやってきていた。「主任ががたがた言ってるんすよ。いつまで停めてんだって。ガソリン入れてくれたことも話し僕はずっと停めていたっていいと思うんすがあの若いほうがうるさいんすよ。」「あっそう。あいさつでもしてやるか。」「そうっすね。それがいいとおもいまっす。」・・俺は事務室に入り、35歳位の一重なのに目が大きいいかにも薄情そうで鼻っ柱の強そうな若造に「申し訳ないですねえ。あとちょっと停めさせてもらえますか。レッカーの時間を知らせる電話待ってるもんで。」と言うと「あー大丈夫ですよ。来るといいですねー」などと言っていた。要するに若造は兄ちゃんにカッコをつけていたのだろう。さらに、5時間を知らされて再度事務室へ行き、「5時間と言われたんで、近くのコインパーキングでも探すので出ますわ。ありがとう。」と言うと「そうですかー。明日までここに停めていったほうがいいくらいかもしれませんが…」などと嫌な目つきで嘘を言っていた。川崎インター近くの出光にはこういう嫌な奴がいるのである。気を付けていただきたい。

コインパーキングまで何とかたどり着いたが、すでに20センチは積もっており、パーキングの所定位置に入れる手前で動かなくなった。俺は、横殴りの雪に当たりながらゴルフのサンドウエッジを出しタイヤ周辺の雪かきを繰り返し20センチずつ移動させながらあと10分と言うところまで来たとき、時刻は7時半を回っていた。「くそっ、クルマおいても傘もねえし家まで1キロはあるじゃねえか・・」こういうどうしようもない時に、なぜか突然、雪の上でバンカーショットのスイング練習を雪をぶっ飛ばしながら5回やったりするのはどのような精神作用なのだろうか。
・・その時、パーキングに軽のバンが入ってきて30歳くらいの丸顔の電気工事人ふうの男が下りてやってきた。「大変ですね―押しますよ!」と言ってやってくれ俺のクルマはすぐに収まった。しかし、男の軽バンも入り口で動けなくなっており、俺は押してやらざるを得なくなっていた。押すだけでなくバン周辺の雪かきも足とゴルフクラブでやり30分近くの苦闘に巻き込まれることになったのだった。俺が押してもらったのは5分。60歳が近づく俺がこいつにやってやったのは30分。俺はこの若者に完全にやられたのである。若者は読んでいた。野郎は「僕の家と同じ方と伺ったので一緒に帰りますか。」などと言っていたが、なんで見知らぬこんな奴と肩を並べて帰らにゃならんのかと当然思い、「少し休むから先行ってよ」と言って運転席にへたり込んだのだった。

その後、歩いて大雪が降りしきる坂道を上がっていき、傘を買いに途中のコンビニにぜーぜー言いながら入っていったとき、店員は落武者のような俺を見てびっくりしたツラとなって目をそらし、レジに行こうとしていた客は飲料コーナーへ引き返していった。

読者にとって今回の話はかなりつまらなかったと思うが、雪の日に車に乗るとこういうことになるというアホの見本を晒すことにも何らかの意味があるものと考えた次第である。