突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

青森・夏泊カントリークラブ


夏泊カントリークラブは、青森の下北半島津軽半島に挟まれて青森湾に突き出た夏泊半島の突先に広がっている。青森市内から浅虫温泉を超えて干されたホタテ臭が漂う沿岸道路を進むと突然スコットランドのコースのような荒涼とした美しさの中に入っていく。
これまで長い間書いたことはなかったが俺はかなりのゴルフ好きなのである。高校1年の時、親父が好きだったこともあり、まだ友達が誰もやっていないスポーツをやろうと思いゴルフ部へ入った。しかし、毎日つまらん素振りをやらされたり、真夏に夜明けとともに重いキャディーバッグを担いで打ったら走る2.5ラウンドで倒れそうになったり、部員がつまらない奴らだったので秋には辞めた。その後ボート部へ移籍したが、毎日のバーベルと毎週末の戸田漕艇場通いで遊べなくなったので数か月で辞めた。その後はモダンジャズという音楽に驚愕して傾倒し、大学を出るまでバンドとその周辺にある酒や遊びや金稼ぎに興じて生きていた。当時の金稼ぎのための売り込みや交渉やかっこつけたいサラリーマンへの吹っ掛け方などはいまの仕事にかなり生きている。当時の仲間で今だにバンドで食っている奴もいるが、そういう奴らは金はなくてもみんな明るく嘘のないすがすがしい顔をしている。
その後、俺は親父お袋のコネを使って放送局の入社試験を受け、コネで内定をもらいながらも卒業単位が二科目足りずに世田谷と久留米の教授の家に酒の土産を下げて朝から座り込んで土下座をしながら「病弱な親父に代わって私が就職して稼がねばならないのです」などと噓を言って同情を買うことに成功し、今に至るのである。
落第しそうだった頃、大学のロビーにいた時、事務室の方からどこかのオヤジが乱入して大声で騒いでいるのが聞こえたことがある。「お前らせがれを卒業させろや!いい会社に入れたんだから…邪魔をすんのはやめろや!」…そっと覗くとそれは俺の親父だった。親父はその後一言もそれを話さなかった。礼を言うべき親父には礼を言えないまま25年前に旅立ってしまった。お袋は、「落第したら1年ぐらいアメリカにでも渡って放浪でもするのね」と言っていた。俺はお袋のおおらかさと器のでかさに2年前に至るまで救われてきた。

夏泊カントリーが印象的だったのでゴルフについて書こうと思ったらだいぶ違う話になった。こんな話に付き合っていただき申し訳ない。
俺は今年に入ってからもう18回もゴルフをしている。ゴルフ再開後30年以上経つが、相変わらず短いパットを外して喚いたり、アプローチをダフッてクラブを叩きつけたりしてキャディーのおばさんに「プッツンこないの!」と怒られたりしている。しょっちゅうラウンドする7つ年下の昭和の漫才師顔の部下がいて、こいつは俺以上のゴルフ狂でありゴルフのために毎日腹筋背筋を100回ずつやっているアホな奴であり、いいやつなのだが勝負は毎回互角となり、俺はこいつが打つ時に時々ではあるが意識を集中して邪念を排して失敗を念じている。
「最高の休息法」という本を書いた脳神経の先生によると、現代人の脳は疲れ切っているらしい。現代人は過去を悔やみ未来を悩み心配することに大半の時間を使い、「今この時だけ」に意識を集中することがあまりに少ないからなのだそうだ。「過去と未来」が脳を疲れさせ「今この時への集中」が脳を蘇生させるのだそうだ。ゴルフをやっていると、OBを打ったりざっくりやったりすれば激しく怒り、ナイスショットすれば狂喜して「OK牧場!!」などと叫んだりする。「今この時だけ」になれる時間はもちろんゴルフだけではないが、俺にとってゴルフはその性質が強いのである。