突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

プラハ・ワルシャワへ 3


共産主義博物館」は、プラハ中心部の路地裏にある。

かつては街なかのあちこちに建立されていたはずの像が、ちょん切られて入り口に並べられている。

共産主義チェコスロバキアの小学校の先生である。難しいことや世の中への文句など言いそうもない従順な微笑みが共産主義チェコスロバキアの模範像だったのだろう。

使命感を持って勤務する警官ややる気と未来への希望に満ちた農民たち・・・。


全体主義」とはデジタル大辞泉によると「個人の権利や利益、社会集団の自立性や自由な活動を認めず、すべてのものを国家の統制下におこうとする主義。」ということになる。
そして、自由を追求するのが資本主義、平等を追求するのが共産主義とすれば、資本主義には平等はなく共産主義には自由はない。共産主義全体主義となる。共産主義では個人は国家のために労働し、国家は個人が財産を持たなくても必要な物やサービスすべてを保証する。・・はずであったが、実際には指導者に過度な権力が集中し個人崇拝と富の集中が起こり労働生産性は停滞し貧困とないはずの不平等と腐敗が蔓延して崩壊に至った。

チェコスロバキア共産主義体制下のポスターの数々…実に気色悪く不気味である。北朝鮮で「将軍様」を絶賛して派手な笑顔で手を叩く人々、嬉々としてマスゲームをやらされている少女たちの痛々しい姿が重なる。礼賛や笑顔や前向きな顔つきを強制されるのは本当に辛いことだろう。考え方や価値観まで強制されて発言させられたり手を叩かされる苦しさはいかほどのものだろう。正しいことを言うと怒られ拷問されたり殺されたりし、正しくないことを言ったりゴマを擦ったり賄賂を届けたりすると褒められたり出世したりする社会…。秘密警察が横行し、密告の監視網が張り巡らされた暗黒社会…。
こんな社会に生まれなくて本当に良かった。たぶん俺は酔っぱらって言いたいことを言って密告され、拷問で逆さに吊るされたり水攻めにあったりするだろう。

1989年に立ち上がった民衆が警察隊に「君たちの任務は国民を弾圧することではない。国民のために働くことだ」と叫んで向き合っているテレビ映像。もちろん立ち上がった人々もすごいが世界に現実を見せつけたテレビ局の勇気もすごい。既得権者の側にいたはずのテレビ局幹部もえらい。自分たちは高給を取り、安住の地を確保しながら、右にならえの中途半端な報道に終始して体裁を整えている日本の大手マスコミは、やがてネット時代に沈没していくだろう。

右の男は狂った悪役の天才、故・成田三樹夫に似ている。
一人の独裁者が一つの国家を暗黒社会に染め上げていく。そして、いったん独裁者のための権力機構が出来上がってしまうと暗黒社会が自ら浄化・健全化するのは難しい。北朝鮮金王朝を倒すための国民運動は起こらないし、民衆が蜂起することもない。
暗黒共産主義を崩壊させた東欧革命は凄いことである。ソ連の改革開放を断行し東欧革命を黙認したゴルバチョフは当時クレムリン内で守旧派に毒を盛られそうになったり撃たれそうになったり子供をさらわれそうにもなっただろう。独裁を引き継いだ者が自ら独裁を止めることは想像を絶する難しさであったはずだ。ゴルバチョフはなぜ回顧録を書かないのだろう。なぜ、映画「ニクソン」や「JFK」があるのに「ゴルバチョフ」は作られないのだろう。