突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

銚子は58年かかってたどり着く所。

4ヶ月ほど前にも銚子を目指したが途中渋滞に遭い断念して潮来に行った。
今度のチャレンジでようやく銚子に降り立つことができた。

銚子は関東平野東端に位置し、南北東を海に囲まれ、関東平野を創り出した利根川水系が大河となって海に注ぐ漁業の町である。

俺はガキの頃から地図好きであり、「4歳児なのに日本地図を書ける子供」として慶応大学教育学部の先生が取材に来た自慢は以前にも書いた。俺の地図好きは中学生の頃まで続き、他に天文好きであったりもしたが、中3あたりでいきがってタバコや酒をやるようになると消え失せて行った。しかし、50を過ぎたあたりからその頃なぜか心惹かれていた国内外の場所へ自然と足が向くようになった。
ガキの頃、日本地図上で惹かれるものがあった地名は、例えば、稚内、網走、津軽、恐山、五所川原佐渡、足尾、印旗沼、足立、足摺岬、小倉、鳥取、賽の河原、五島列島対馬隠岐島八丈島、悪石島、沖永良部島西表島南大東島…などなど、
「どんな苦難に満ちているのだろう」「どんな異質な人々がどんな得体の知れない暮らしをしているのだろう」などと密かに想像するのが好きだった。俺は、苦難や、異質や、得体知れずにワクワクする性質だったのである。
銚子という場所も好きな想像の対象であった。

銚子は関東の東端で地図上では極めて目立っていながらどんなところなのかの情報に乏しく、真夏の天気予報では東京が33度で熊谷は36度なのになぜか銚子だけは27度であり、銚子周辺出身の人にはあったことがない。広大な関東平野を支配する利根川水系が全て合体して巨大な濁流となって海に注ぐ恐ろしさ…。本数は非常に少ないが実は東京駅から「特急しおさい号」で乗り換えなしに2時間弱で行けるのに、ほとんどの人はどうやって行けるのかわからないしわかろうとも思わない「陸の孤島」感…。東京人にとっては隣県にもかかわらず、稚内や知床と同じくらいの心理的な遠さがあるのではないだろうか。

やはり銚子というところには何か異質なものが漂っていた。大河の河口周辺のなだらかな傾斜地には沖縄南部のように耕作地が広がり、所々に変哲ない民家が密集して静かな陽光が降り注ぐ。駅を中心とした市街地は何の面白みもない間抜けな景観の連続となる。犬吠埼周辺には観光ホテルも幾つかあるが、街全体として何かをアピールしようとか、サービスしようとか頑張ろうとか…そうしたやる気のようなものがなく静かなのである。風が吹き抜け明るい日差しが注ぎ続け、気温は東京より4度は低いだろう。やけに親切な駐車場の日焼けしたオヤジがいたり、話しかけると嬉しそうにする食堂や魚屋のおばさんもいて、彼らは話しかけてくることはないが、こちらが一言言えば堰き止められていた十倍の言葉が溢れ出る。関東にありながら静かに別の時間が流れている銚子。たぶん関東でこんな所は他にない。
クルマで2時間半かけてやって来る価値は充分であった。

「ウオッセ」という海産物の市場である。俺はこういうところが大好きなのである。このゆるキャラは何をモチーフにいかなる可愛さを訴えるものなのだろうか。でかい鯵の干物が5枚セットで600円だったがオランダ産と書かれていた。おばさんに「何で銚子の市場にオランダ産が置いてあるのよ?」と言うと「オランダ産だけどうちの工場で干物にしたからおいしいよ」と言っていた。面倒なので「あっそうなの」と言って買って食ったがうまかった。こういう会話には人を癒す効果がある。

メバチマグロの値段は東京のスーパーの1/3くらいである。