突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

ヒドい旅館

俺はこれまで日本旅館での体験を何度か書いてきた。最近では箱根の萬翠楼福住や湯河原の加満田などの名旅館からかんぽの宿まで、年間で7〜8回は出かけていると思うが、どこもそれぞれに客のもてなしに一生懸命であり、頭が下がる思いとなることが多い。2月には母と娘を連れて箱根富士屋ホテルへ行ったのだが、チェックインの後、やや入組んだ館内を説明し部屋に案内してくれたのは半年前に来日したばかりのポーランド人の青年であり、しかし、厳しい訓練を受けているのか、ポーランド人であっても客への礼儀や親切さは申し分ないレベルであった。
日本の客商売のホスピタリティーは世界のトップではないかと思っていたところ、今月始め、それが一気に崩壊する事態を迎えたのである。

俺の会社はJTBの勧めで「ゆがわら大野屋旅館」に社員旅行に出かけたのである。金曜の夕方に到着してから、番頭や中居の「早く作業を処理したい」というカサカサした感じ、カラオケ後に俺の携帯がなくなった時に二人のスタッフが同時に見せた「関わりたくない」という感じなど、あまり愉快な旅館ではないな、とは思っていたが翌朝にそのハイライトがやってくることとなったのである。
ゴルフをやる12人は7時15分から大広間で朝飯となった。広間の舞台側には不機嫌なツラをした60代と思える5〜6人の中居が集まったり散ったりしながら飯の世話をしている。食っていた一人が「すみません、水をください」と言った時からそれは始まっていった。中居どうしが口げんかを始めたのである。
「水よ水!」「わかってるわよ!しつこい!」「くどい!」「ぐちゃぐちゃうるさいのよ!」…こそこそ言い合っているのではない。大声でやっているのである。
俺は水を飲みたかったしご飯も半分お代わりしたかったが、嫌な感じが漂う中、言えなくなった。普段なら「あんたら客の前で何やってんのよ。飯が不味くなるからやめなさいよ。」と言い、不貞腐れれば「責任者呼んでこい!」などとやるところであるが、社員旅行であり、これから楽しくゴルフをやる前なのでやめておいた。殺伐とした空気漂う中、みんな口数少なく飯を終えて広間から逃げ出して行った。
ひどい旅館もあったものである。出発時にもろくな見送りもない始末である。中居のおばさんたちはそんな歳になっても安月給で働かなければならない事情を抱え、寒い早朝から集められて着物も着せられ、水だ、お代わりだ、箸がねぇだと言われてカリカリするのはわかる。しかし、それを笑顔に変えてしまうのが客商売というものだろう。ゆがわら大野屋旅館は高級宿に位置付けられていて安くはない。高い金を払ってこんな目に会うのは金をドブに捨てるに等しい。