突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

沖縄の、怪しさ漂うモリマーリゾートホテル


那覇からroute58を40分ほど北上した読谷村にこのコンドミニアムがある。


66平米の部屋のすぐ下には人影のないビーチが広がっている。俺は、年末にほんの一時だけでも世間から離れて脱力したくなったのである。いつも休日には世間から隔絶した暮らしをしているのだが、やはり全く異質な環境に身をおいての脱力がたまには必要なのである。国内にも異郷はいろいろあるわけだが、飛行機一本で行けて何もかも便利なのに異文化の空気、時としてどこか妖しい空気で包んでくれる沖縄は、やはり異郷の王様である。

異郷で脱力すると、自然と「いまに見てやがれ」とか「必ず見せつけてやるぜ」などという勇気に似た気分が湧いてきたりもする。俺の場合、「やる気」の多くはこうしたものである。

以前に、沖縄についてはかなりたくさん書いた。今回はあちこち行かずにこの広い部屋とバルコニーに座って海を眺めたり「2015年総予測」みたいな日経の本を読んだりしながら多くの時間を過ごした。数年前までは沖縄に来ると必ず行っていた品数豊富なアウトレットや免税店にも行かなかったし国際通りをぶらぶらすることもしなかった。そのような場所に興味がなくなったのである。

空港から読谷村に至る途中の宜野湾市にこのエリアはある。少し覗いてみた。通りから少しはいった住宅街に突然広がる売春地帯の残骸である。小さな売春小屋が連なり、数年前まではピンクやむらさきの明かりに満ちていた。前原社交街と言われたこのエリアは1950年代から形成されていったと言う。アメリカ統治時代に、性犯罪を多発させていた米兵のフラストレーション対策のために計画的に作られたのだ。数年前に警察が徹底した取り締まりを行い、いまはほぼ廃墟となっている。
しかし、車が停められ、いくつかの小屋からは人の気配がし、目付きの鋭い50代のパンチパーマがタバコを吸いながらこちらを窺っていた。

話を読谷のコンドミニアム「モリマービーチリゾート」に戻したい。66平米の部屋はツインベッドルームが2部屋あり、バスとトイレも2つある。潮騒に包まれた広々したリビングからはエメラルドの大海原を見渡すことができ、バルコニーの清々しさと解放感は格別である。本館はかなり古いが俺が利用した新館は4年前にできた。一人で泊まることができて、朝食付きで一泊税込13500円だった。


夕食も悪くない。でかい有頭海老が3尾のフライセットは1600円、大ジョッキは500円である。
だだっ広いレストランは明るく感じのいい沖縄顔の姉さん二人が忙しそうに切り盛りしている。食い終わって出る時、姉さんに「ごちそうさま」と言ったら、ねえさんも「ごちそうさま」と言って通り過ぎて行き、振り返って「あっ」と声をあげていた。些細なことだが俺はこういう沖縄が嬉しくもある。

部屋から東シナ海のサンセットを眺めながら、俺は「何か」を感じていた。到着した時からこのホテル全体に漂っている「何か」…。明るいビーチに建っているのに、すべて白を基調としているのに、どこか沈みがちで重たい空気。男性従業員に見られる伏し目がちで必要以上のコミュニケーションを避けるような雰囲気。なぜこれだけの滞在ができてこんなに安いのか…。これは何なのだろう。
陽が落ちた後、俺は街に出かけようとして駐車場のレンタカーの向きを変えた。駐車場を隔ててホテルと反対側のブロック塀の前でいったん止まってバックしようとしたその時、それは俺の視界に飛び込んだのである。ホテルの背後一帯には巨大な火葬場が灰色に広がっていたのである。
沖縄は甘くない。沖縄は油断ができない。
しかし、人間は誰でもいずれは命が尽き、ほとんどの日本人は火葬場行きとなる。だから火葬場を異界視する必要もない。
このように考えることができる人にはモリマーリゾートは値段に対して素晴らしい。考えられない人にはお勧めはしない。