突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

バルセロナ〜グラナダ その5 「無為の街グラナダ」


アルハンブラ宮殿を2時前に出て、グラナダ市街へ向かった。タクシーで10分である。

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街の中心、ヌエバ広場周辺である。

グラナダでは完全な太陽が地上を支配している。日差しを受ければもちろん、日陰にいても建物の中にいても、太陽の存在を忘れることはない。したがって影は深い。


アンダルシア地方は半乾燥地帯である。狭いジブラルタル海峡の対岸はモロッコでありアフリカが始まるのだ。かつて、「アフリカはピレネーから始まる」とも言われたのだそうだ。たぶん、ゲルマン人の言葉だろうが、スペインとポルトガルは完全なるヨーロッパではないという意味である。800年近くのイスラム支配の歴史とアラブとの混淆。インド起源と言われるロマ族(ジプシー)と、北西アフリカのイスラム教徒モーロ人が17世紀から創成していったフラメンコに代表される非キリスト教文化の定着…などがそう言わせるのだろう。


グラナダ中心部にはアラブ人エリアが点在する。


俺はトヨタプリウスのタクシーで、1000年以上前にモーロ人が形成したエリア「アルバイシン」へ向かった。丘陵地帯に広がる白壁の家並みと石畳の狭く入り組んだ坂道に完全な太陽が照りつける。

少年は何を想う。

広大な住宅エリアに人影はまばらである。家の中には人がいるのだろうか、と覗き込んでみたのである。洗濯物はあっという間に乾いてしまうだろう。このあと女性にバス停の場所を訊いてみたが、何を言っているのか分からず、なお迷路にはまっていくこととなった。英語は話さないのである。


アルハンブラ宮殿の全景を見渡す展望台についた。

バス停も発見して立て続けにビール2本とミネラルウォーターを飲みこんだ。完全な太陽は急激に生物から水分を奪っていく。

平日の昼間。グラナダの丘の上のカフェでビールを飲み続ける男たち。どう見ても観光客ではなく、彼らは何者なのだろうか。一人で注文をさばく右のウエイターは時々こちらを見ては笑顔を向けた。どんな気持ちの表明なのか俺にはわからなかった。



グラナダ出身の詩人、ガルシオロルカという人は1930年代のスペイン内戦の銃弾に倒れた。ロルカは「グラナダは無為の街であリ、瞑想と空想のための街である」と語ったのだそうだ。肥沃な大地と白壁の街並を音もなく照らす大きな太陽と完璧な青の空。イスラム世界とカトリック世界の混淆。光に満ちているのに翳りが深く、明るいのにどこかもの悲しいグラナダ。俺はいつかアンダルシア地方というところにしばらく留まり、やがてジブラルタル海峡を渡って北アフリカの太陽に照らされてみたい。そんなことを夢想するようになってしまった。