突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

往復2時間の目の保養

ケツの手術から3週間近くが経過し、ようやく普通に歩けるようになってきた。紅葉の季節は過ぎ去ってしまったが、まだ近くに名残があるのではないかと思い、浮き袋型のクッションをケツの下に置きながら車を走らせた。


田園調布の銀杏並木の黄葉は終わっていた。俺は毎年見に来るのだが、天気が良い日に眺めるここの黄葉は息を呑む美しさなのである。田園調布から多摩川駅に至る界隈の街並みは、坂と樹木が織り成す光と影の色彩も含めて、やはり日本一の高級住宅地なのではないかと思う。一方で俺は、小汚い木造モルタルのジメジメしたカビ臭いアパートやトタン板のペンキが剥がれたような平屋が連なり、子供を叱りつけるブスな母親の金切り声が聞こえて来るような悲しい住宅地を眺めるのも大好きなのであるが、やはり時々は田園調布を目に焼き付けるべきである。貧乏くさいもの、冴えないものを見すぎると、いつの間にか自分もそっち方面に引きずられていく。
俺は、20代も前半の頃、取材で田園調布や成城、等々力、さらには南青山、白金、広尾…のようなところに行く度に、「将来俺はきっとこういうところの瀟洒なマンションに住むんだろう」とぼんやり考えていた。30年が経過して高級住宅地を歩く今は「こいつらはどんな悪いことをしてこんな家を建てやがったんだろう」などとも考える小ささである。

九品仏浄真寺は田園調布から車で10分である。ここは紅葉と黄葉のコントラストが素晴らしい。黄葉はほぼ終わっていた。木漏れ日の境内をゆっくり歩き、本堂に上がらせてもらって大仏様を拝んでいると静かな心持ちになっていく。嘘つきの悪どい奴らへの憎しみや復讐心が大きくなりすぎた時などに訪れると心が救われていく。