突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

バリへ3

再びバリの風景の断片を辿ることにする。

ウブド郊外、チュルッ村にあるワスパの家の裏側には川が流れていてみんなここで体を洗うのだ。ワスパは、シャワーなんかよりずっと気持ちがいい、と言っていた。男の時間と女の時間に別れている。女の時間には森から少年たちが覗き見をする。ここに来る女はわかっていてもあまり気に留めない。


コーヒーと香料になる植物を栽培している農園に行った。こいつはそこで飼われている「ジャコウ猫」である。ジャコウ猫にはコーヒー豆とジャコウの草しか食わせない。俺は、その辺に生えている雑草にしか見えないジャコウの草を与えてみたが、すごい勢いで食っていた。ジャコウ猫はジャコウの匂いのウンコをし、ウンコにはコーヒー豆が原型をとどめている。嗅いでみたが、いい匂いのウンコというものにはじめて出会った気がした。そして、このウンコを乾燥させて炒っていれたコーヒーの味は絶品であった。飲ませてくれ、と農園のじいさんに言うと「高いけどいいか」と言ったが500円だった。時々日本の商売人がやって来て大量にウンココーヒーを買って行くそうである。コーヒーカップの底に溜まったドロドロはさすがに飲めなかったが、そこが一番旨いらしい。


バリの古都、スマラプラにはウブドから車で1時間ほど走る。16世紀以降、バリ島の支配王朝であったゲルゲル王朝の都である。王宮跡の裁判所の天井画が面白い。これは、体を売った女が恐ろしい形相の化け物にあそこを焼かれる刑罰を受けている絵である。もちろん男があそこを焼かれている絵もある。悪い嘘を言い回った女が舌を抜かれている絵もあった。ゲルゲル王朝の流れは20世紀初頭まで続いたが、オランダに徹底的に痛めつけられバリはすべてオランダの植民地となっていった。

ウブドにはたくさんの犬が徘徊している。結構でかいやつが多いが、こちらに危害を加えそうな雰囲気がないところが不思議であった。また反対に、人間もあまり犬に関わる様子がない。ウブドでは犬と視線が合わないのだ。写真の犬二匹はこのまま俺を見ることもなくすぐ傍を通り過ぎて行った。


銘木の産地、バリには素晴らしい天然無垢材の家具を驚くべき安値で売る店が軒を連ねるエリアがある。ここの家具は全て高級材チーク製で、職人がその場で手作りいている分厚い一枚板の4人がけダイニングテーブルが2万円以下で売られていた。日本で買えば10万円を大きく超える。俺は、商売にできないかとワスパとシミュレーションしてみたが、輸送費や倉庫代や人件費で大した儲けにはならないことになる。あと3週間で俺の部屋に右奥の椅子がやってくる。
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ウブドから北東へくるまで1時間半、「キンタマーニ」高原にあるバトゥール山とバトゥール湖はバリでも特に有数の景勝地である。そして写真では鮮明には見えないが、湖の反対側の入江には、未だ通じる
道もないトルニャンという隔絶された村がある。トルニャンでは、未だ古いしきたりがあり、既婚者が死んだ場合は風葬となるので、あちこちに骸骨がころがっているのだそうだ。恐ろしい村なのでガイドも行きたがらない。