突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

バリへ

半年ぶりの更新である。不愉快だらけの半年だったが、50も半ばとなればそういうものだろう。
俺はつかの間でも旅に出て別世界の景色を見たくなった。そんな時は都会ではない。雄大な自然でもない。まだ見たことがないバリ島に行くことにした。
連休のバリ…たくさんの人が集まるであろうクタとかレギャンのビーチリゾートは当然避けて、車で1時間ほど山側に入った伝統文化の中心地、ウブドに滞在した。ウブドは特色あるいくつかの村が集まったエリアである。木彫りの村、銀細工の村、石工の村、絵画の村、チーク材マホガニー材の家具の村、熱帯植物から香料を作る村…。俺は運転手を雇い全て見て回り職人の兄さんやおっさんと助平な会話をしたり値切ったりした。ウブドの村々は、全てちょん切って持ち帰りたくなるような熱帯植物群と田んぼと椰子の木に覆われ、点在するヒンドゥー教寺院の強烈な表情の神々に赤道直下の日差しが照りつけて、どこか懐かしくいい匂いがする風が吹いている。
金を払っても払わなくても、おっさんやおばさんや若者はみんな本当ににこやかで親切で礼儀正しい。陽気というのではなくはにかみがちな笑顔でいてフレンドリー。信心深いバリヒンドゥー教徒であることが生きる基本であり誇りでもあるように思えた。そんな彼らが好きでないのは、仕事がない隣の大きな島からやってくるイスラム教徒のジャワ人と最近増えてきた中国人。こんなおおらかな人々にも傍若無人な中国人観光客が嫌われていることを知って嬉しい気分になった。
はじめの写真はガイド兼運転手をやってくれたワスパ42歳である。ワスパは観光ガイドを中心に銀細工の仕事もやり凧揚げの名人である。

ワスパは10年前に浮気がばれた。警察官の女房に頭が上がらない毎日である。
しかし、この家は素晴らしい。上と下はワスパがおやじおふくろと暮らす家である。銀細工の村、チュルッにある。

敷地の中にはセレモニー用の建物がありお寺も入っている。200ツボ以上はあるだろう。昔おじいさんが土地を買い、おやじがバスの運転手と銀細工をやりながら建てましていった。これは平均的な家だと言っていた。

ワスパの奥さんプシュカさんである。警察官であり伝統舞踊の先生である。これからお寺でお祈りをする。日本人はみんな陽気で楽しい、と言っていた。本当なのだろうか。次はうちにずっと泊まって欲しいとも言ってくれた。きっとワスパはなんらか自分の演出のために人を選んで奥さんに紹介したりするのだろうと思った。まあ俺は選ばれたんだろうからそれはそれでいいとするべきだろう。
別れ際に「YOU ARE MOST BEAUTIFUL GIRL IN BARI」と言ったら車に駆け寄り頭と顔を撫でてくれた。運転席でワスパは小さく頷いていた。

この若者は18歳である。俺が泊まったホテルのリーダー格である。給料はひと月15000円だ。ビールをくれとか、灰皿をくれとかいうと、素早く走って対応する。暇な時は同い年位のスタッフ2人とバイクをいじったりギターをひいて歌ったりして笑いあっていた。夕方暇そうにしているので「君のバイクの後ろに乗っっけてもらい景色の良いところを回ってくれないか」と言うと、嬉しそうにバイクを出してくれた。1時間ほど走り田舎の暮らしを見て回り、ポケットにあった50000ルピー(500円)を払おうとしたら、金はいらないと言った。俺は感動し財布から100000ルピー札を取り出し「受け取るべきだ」と言うと満面の笑顔になった。
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ビスマ.サリ.リゾートは王宮があるウブド中心から約800mで周囲には美しい田園風景が広がっている。朝飯付き1泊4500円という安さである。俺が泊まった2階の部屋は25平米位で広いベランダで森と庭を眺めながらビールを飲む時間が素晴らしい。部屋の家具は全てチーク材であり、はじめてレースの囲いがついたでかいベッドで寝た。4日の間に俺の他の客は最終日に来たオーストラリア人の女2人だけだった。ベランダでタバコを吸っていてふた部屋離れた距離で目が合うと、俺が覗きでもしたかのような非難の身振りをしワーワー言っていた。デブどものくせに失礼な奴らである。


ホテル周辺の景色である。無数の鳥のさえずりと体の成分を浄化してくれるような風の匂いなのである。