突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

重たい暑さと水びたしの街 〜 バンコク






二ヶ月のご無沙汰でした。
猛暑の中の台湾出張から足を延ばし、さらに暑いバンコクに行った。台北は夕方になると湿度で空気が白っぽく見えるし、バンコクの湿度は見たこともない夜の豪雨となる。俺はタクラマカン砂漠の街、トルファンで50度超を体験したが、バンコクの34度はそれよりも過酷である。
バンコクに行ってみようと思ったのは、はるか数万年の人類の移動の中での自分のルーツを感じてみたい旅、その一環である。俺はシンガポールやクアラルンプールで日本人観光客に道を訊かれたりする顔つきなのである。
バンコクとその周辺は、チャオプラヤー川を中心に、その支流、無数の運河、池、沼…まさに湿地帯の中に広がっている。雨が多いので街中に水たまりがあり、あちこちから生ゴミの腐臭が漂ってくる。そして夜の豪雨がそれを洗い流していく。腐臭を発生させるのは歩道を占拠する屋台である。やっている多くは中国人。奴らは世界中を汚染するのだ。腐臭と同時に目立つのは売春婦の多さである。夕方以降あちこちのマッサージ屋や屋台バーの店先に厚化粧の女たちが出没する。歩道を歩いているとなぜか女たちは一斉に俺を呼び止め捕まえようとする。俺は車道を歩くようになり何回かバイクにひかれそうになった。
欧米人や急に金回りが良くなった中国人どもが女に捕まっていた。奴らの多くはエイズになるだろう。
バンコクには麻薬も蔓延している。ミャンマーラオス国境の山岳地帯ではケシの栽培が行われ、アヘンを密造する黄金の三角地帯と呼ばれている。その一大消費地バンコクなのだ。不良欧米人旅行者はそれを目当てにやってきて、チャオプラヤー川近くの安宿街にとどまり、雑踏にまぎれて匿名の時間を過ごすのだ。
しかし、俺はそんなバンコクが嫌いではない。どこか、「人間なんてそういうもの」という達観(諦観か)が支配する街。北京や上海では必ずでっくわす怒鳴りつけたくなるような尖った悪意には決して出会いそうもないゆるさ。ホテルでもレストランでもお土産屋でも、こちらの笑顔には必ずそれ以上の笑顔を返してくれる街。
照りつけるのではなく、内側から体力・気力を奪っていくような重たい蒸し暑さ…連日の激しい雨ですぐに氾濫する川や無数の沼地…放っておいてもどんどん成長する熱帯植物群…バンコクには重い夏以外の季節はない。こんな気候風土の中では、多くの人間はシリアスやストイックや規律や計画性や策略といった習性を捨て去りたくなるのだろう。達観と諦観に覆われたバンコクの気配。タイ人の95%は仏教徒であることもどこか頷ける。。
8万5千年とも言われるアフリカ発の人類のグレートジャーニー経路を見れば、我々日本人のDNAのどこかにはタイ周辺インドシナ人を祖先とする成分が含まれているはずなのである。