突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

日本の始まりの地という通説



 昨日の出雲から鳥取方向に150キロほど移動し、今夜は倉吉というところのかなりボロくてやばい感じのビジネスホテルである。部屋にはいってからアレルギー性鼻炎がとまらない。そして携帯用ウオッシュレットが必要だった。
 今日は出雲を出て、石見銀山温泉津温泉を見て回った。石見銀山温泉津温泉(ゆのつおんせん)の古い街並みはともに世界遺産に登録されているのだ。石見の銀は16世紀から掘り出され、往時には世界に流通する銀の3割以上を生産していたという。温泉津はその銀の積出港として栄えた。
 それにしても、写真のようなひなびた木造家屋が連なる街並みの風情というものを、巨石建造物文化のヨーロッパ人がよく理解したものである。上写真は銀山近くの街並みで、すぐ右手前は診療をやめてしまった病院である。入り口には、不便を詫び投薬には対応する旨の張り紙があった。張り紙といえば、何軒か向こうにある煙草屋には「…タバコに不良品があった場合には遠慮なくお申し出てください…」という掲示が出ていた。タバコを吸い出して40年、俺はこのようなことわり書きを見たことがない。銀なき今は外界の時間から隔絶されてひっそりと佇む集落にあって、人々の生き方は尚も丁寧なのだ。
 中下写真は銀山から車で20分ほど行った海辺の集落、温泉津温泉街である。俺はガキの頃からどちらかといえば脅かす、追いかけるなどして猫をいじめてきたが、温泉津の猫は、猫の方から二匹で俺に近寄ってきた。写真の猫はこの後、しゃがみこんだ俺の膝頭に額を擦り付けたりして遊んでいた。猫の見方が一変した。
 俺は温泉津でも一番古いという「元湯」という銭湯に入ってみた。洗い場はなく五人で一杯になる湯船が二つ。求道者のような老人たちが言葉を交わすことなく湯の熱さに耐えていた。俺は5分で風呂から上がり、番台に座って金勘定をしている婆さんに「おばさん、いつからやってんの?」と話しかけてみた。婆さんは「そりゃあんた、1300年前からだよ」
と言っていた。
 今回は出雲と石見銀山周辺の旅だった。出雲大社とその周辺の山並みと平野と海の対比。それは奈良以前に、この地に大和政権へと連なっていく強力な出雲弥生王朝が存在していたことを感じさせる何かを持っていた。