突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

浅草の虎姫一座

「人生は素晴らしい。それは旅ができるから。」19世紀のロシアの探検家の言葉である。
最近旅をしていない。だから今回は最近東京で出会った良いものと不愉快なものについてである。
写真は浅草のコシダカシアターというところでほぼ毎日やっている昭和歌謡レビュー「シャボン玉だよ!牛乳石鹸!!」演ずる20代女性中心の虎姫一座である。このショーが実にイイ。「砂に消えた涙」「レモンのキッス」などの洋楽カバーと「ウナ・セラ・ディ東京」「恋のフーガ」「銀色の道」など1960年代の歌謡界を走り抜けたザ・ピーナッツのヒットメドレーで構成されている。1960年代のほとんどで俺は小学生であったが、曲は全部知っている。マッコリを飲みながらあの時代の空気や波動が蘇ってきて思わず目をつむってしまうのである。虎姫一座の女の子たちは当然ピーナッツを知らない。にもかかわらず、彼女達のけな気で一生懸命なパフォーマンスは、親父やお袋や兄貴達と暮したあの東京オリンピックがあったりもした時代の匂いを蘇らせてくれる。あの頃の歌は詞も曲も日本人の歌だ。日本人の琴線は50年くらいでは変わらない。だから20代の虎姫たちが歌っても同じ感動を運んでくれる。企画し実行したのはアミューズ会長の大里さん。こういうショーを浅草という場所で労を厭わず実際にやってのけるバイタリティーに敬服する。懐かしいだけでなく、この時代を生きる我々を癒し励ましてくれるタイムリーな企画でもある。
一方、六本木である。東京ミッドタウンにあるリッツ・カールトンと言えば最高グレードに位置付けられ、どんな奴らが泊まったりしているのだろうと思われている高級ホテルである。先日、気をつかう会食を終えた後、バーラウンジに三人で入り少し「冷やそう」ということになった。俺はメニューに千数百円のアイスコーヒーを発見し、たけえなぁと思いながらもウエイターを呼びオーダーした。そしてその直後であった。ウエイターは俺が持っているメニューをガサツに取り上げ「あっ。これは昼間のメニューですねぇ。こちらから選んでくださいね。」と言って夜メニューというやつを差し出した。俺はさらに数百円高いアイスコーヒーを注文することになった。昼か夜かしらねぇがテーブルにおいてあったやつから俺は選んだのだ。申し訳ありませんも失礼しましたもない。何か俺がセコイことをしたかのような空気さえ漂わせるこのウエイターはなんなのか。いつもであれば「あんた、ちょっとまてよ」位は言ったと思うが、リッツ・カールトンなので「これも置いてあったから選んだんだけどね」という言い方になった。しかし、奴は伝票を書きながら表情一つ変えず無言で立ち去って行った。連れの二人が無言でしたを向いているのをみて俺はこらえた。
奴はまともな日本人ではない。てめえまでリッツ・カールトンにでもなったような気分なのだろう。
だいたい俺は90年代以降東京のあちこちに誕生した複合大型ビルが大嫌いだ。どこも決まってコンクリートと金属とガラスの内側に竹を植えたりする。それがなんだ。そんなものに感心しているのはだいたい田舎者である。
リッツ・カールトンのほとんどの人々は素晴らしい接客態度なのだろう。しかし、多くの高級施設には勘違いしてしまった不愉快な奴が存在するのも確かである。そういう奴らは浅草あたりの天麩羅屋やお好み焼き屋や虎姫一座の献身的マナーを見習うべきであろう。
浅草と言えば、真近でスカイツリーを眺めたが、情緒のかけらもないひどい建造物であった。