突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

隠れたい

ナポリでは、或る夏の1日、朝8時半から午後3時まで、長い散歩をした…それだけの話である。
いま、東京での日常の中、あの太陽と深い陰影の記憶は、そこにいる時よりも鮮明である。
閑散としたサンタ・ルチアの海に張り出して900年間の波に洗われ続ける古城、卵城。
海岸通に立ち並ぶ、古い新しいを超えた、この後何百年もずっとそこにありそうなホテル群。客の出入りはまばらであり、年配の太ったホテルマンたちの笑いあう声だけがそこにある。
サンタ・ルチア…。
俺はこういうホテルに隠れたい。またひとつ、厄介とも言える願望が俺の中に根付いてしまった。
しかし、俺は何に追われているのか、何から隠れたいのか、よくはわからないのである。