突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

明るいイタリア人、暗いイタリア人

 5泊7日で垣間見た範囲で言うと、ローマの人々、ナポリの人々は聞いていた通り、旅行者に親切であり、気さくで陽気な人々であると思った。ブロークンイングリッシュで一人で旅する俺であっても、「ブォンジョルノ」「グラッチェ」「スクーズィ」「チャオ」・・・あたりをちゃんと言えば、NYやロンドンよりもダメ英語でのコミュニケーションはスムーズである。ホテルや駅や街中で冷たくされたり困らされたりすることは皆無である。これは、イタリア人が概して話好きで親切な気質を持っているためと思われる。ナポリの下町の迷路で迷った時、「スクーズィ、スタッチオーネ・ナポリセントラーレ、オーバーゼア?」という酷い言葉で5人以上に駅までの道を教えてもらったが、全員が10倍以上の言葉を尽くして教えてくれた。
 しかし、いまこの手の話を続けても「あーそうかよ。それはよかったな。」と思われるだけである。ここからは、悪いイタリア人の話に転換したい。
 フィレンツェのパラティーナ美術館は「ラファエロ」のコレクションが豊富とガイド本にあった。俺には美術的教養などあるわけではないが、ラファエロはガキの頃から俺にとっての西洋美術の象徴のひとつであった。美術館のチケット売り場には10mほどの列が出来ていた。窓口は2つあり、俺の列を担当するのは30歳くらいのわりと美形の女だったが、こいつが酷かった。もううんざりという不機嫌な表情で客を指差して怒ったり、釣りを客に放り投げたりしていた。俺の番が来て「ラファエロを観ることができるチケットをくれ。俺はラファエロを観に来た。」としつこく告げると、返答なく無表情に15ユーロのチケットをよこした。俺は200mほど離れた入り口まで歩き、「ラファエロはどこ?」と言うと入り口係りのおばさんは「このチケットではラファエロを観ることはできない。買いなおしてきて。」と迷惑そうに言い放った。俺は当然抗議したが、諦めて再びチケット売り場に向かった。この日フィレンツェは37℃。痛いほどの日差しである。いい加減なやつらだなぁ、と思いながらまた10mの列に並び、再び窓口の威張った不機嫌女に相対する番となった。「俺はさっきラファエロを観たいと言っただろ。入り口に行ったら、これでは観ることはできない、と言われたよ。もう電車まで時間がなくなってきたので金を返してくれ。」…女は詫びる様子など微塵もなく「あと8ユーロ払えば見ることが出来る」と言った。俺は「だからもう時間がないから金を返してよ。あんたはそうすべきだよ。」と言った。その時である。女は、白人が呆れた感情を表現するときにやる、両腕を左右に広げて手のひらを上に向ける格好をし、「だからお金は返さないの!観たけりゃ8ユーロ払いなさい。時間がないのはあなたの問題で私の知ったことではない。」…中国西安のホテル女よりひどい奴がいたのである。
「間違えたのはお前なんだぞ。まず謝れ。そして金を返せ。客の言うことを真面目に聞いていないからこういうことになるのだ。バカやろう。(ファックフールクレイジーガール)」と言うと、さすがに驚いた顔になり、奥の上役らしき男を呼びにいった。男はジャガイモ型の色黒の顔でがっしりしていた。男とも同じようなやりとりとなり、最後に真っ赤になって「お前は並んでいる客に迷惑をかけている。出ていけっ!!」と言いやがった。俺は逆上に近い状態へ向かい「ファットブラックピッグボーイ、!ユークレイジーマザーファッカー!アイルメイクレジスタントトゥオーソリティー!デスフォールトゥユー!」みたいに叫んだ。男は真っ赤な顔のまま無視を始めチケットを売り始めた。列は30mくらいに伸びていて、アメリカ人の団体客は全員俺を見ないようにしていた。もしここが東京であったり、列がナポリ下町の人々であったなら、「怒っている奴に金を返すべきだ!」と味方してくれただろう。
ローマではバチカン美術館に行ったが、ここにも不愉快なスタッフがいた。イタリアの美術館スタッフは、まるでてめーがラファエロミケランジェロにでもなったかのように「見せてやっている」面の奴らが多い。
空港往復に乗車したタクシー運転手も酷かった。空港ーローマ市内は44ユーロの定額制である。行きも帰りも100ユーロ札を出しても釣りをよこそうとしない。「イットシュッドビーアフィクスドフェア」と言うと無表情にあっさりと釣りを出す。帰りは「でかい荷物と合わせて50だ。」などとほざいたりもしたが「ネバー」といえば諦める。
ローマのど真ん中、ベネチア広場のカフェでアイスクリームを食っていたら、暑いのに黒制服を着せられた背の高い30歳くらいのウエイターと会計担当の50歳くらいのアラブ顏の太った髭がケンカを始めた。ケンカはずっと続いていた。当然客は邪険に扱われている。アメリカ人観光客らしき白髪の婆さんが俺のところにやってきて、メモ書きを見せながら「計算をしてくれませんか」と言った。紙をみると、殴り書きの三桁の数字が10個近くは並んでいた。酷い店である。婆さんの買った一つ一つの代金を殴り書きで婆さんに渡し、自分で計算しろということなのだ。てめえらは客の前で口論を続け、困っている婆さんはほっぽらかしである。俺は計算するのは面倒だった。でもここで婆さんを無視してフェイドアウトしたら日本人の汚点を残すと思い、朝っぱらから飲んでいたビールの勢いも借りて「ノイジーカフェ!!カルキュレートショッピングオブジスクイックリー!」と言い放って10ユーロを置き急いで店を出た。アラブ髭が怒って何かを言おうとしていた。その後、婆さんが計算をしてもらえたかどうかはわからない。

例のチケット売り場

ナポリの下町

トラブったフィレンツェ駅前

ローマ・ナボーナ広場