突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

北へ向かう





東北での仕事の後、北海道に渡った。稚内に網走に釧路。ホンダの小型ハイブリッドを借りて、1340キロを駆け抜けた。ガソリンはトータル70ℓ、リッターあたり19kmはやはりすごいし走りも良い。でかいハイオク車に乗っている奴がバカに見える時代になった。(俺も)
写真1は、網走近く、オホーツク海岸の汽水湖サロマ湖の夕景である。この時気温は3度。東京とは20度近く違う。俺は寒いところが苦手であり、北海道にはあまり馴染みがなかったが、この連休の気分は北海道、しかも札幌や富良野ではない、兄ちゃん姉ちゃんにはあまり人気がないであろう演歌が似合う北海道で背中を丸めて歩きたかったのだ。写真5は釧路の盛り場であるが、ジャズもボサノバもロックもjーpopもありえない。そこは演歌が支配すべき領域なのである。稚内、網走では一層それが際立つ。
俺は、網走の飲み屋で「船頭」(せんどう)と呼ばれ敬われている81歳の小柄な漁師と出会い、ひとしきり酒を酌み交わした。「船頭」は日本海側から宗谷岬を回り、その日に網走に帰港した。「船頭」は個人事業主や小企業という形を取る漁師たちのまとめ役、調整役だ。もめ事にも立ち会い、その「顔」で決着をつける。オホーツク漁場には今なおなくてはならない顔役だが、調整で儲けるようなヤクザっぽいことはしない生粋の漁師だと言っていた。高倉健と同じ「健」という名であることが嬉しそうであった。海の仕事であるのに、時事に詳しく、全てに傾聴すべき意見をもっていた。しかし、笑顔の中で時々ふと見せる「目」はカミソリのように鋭く、孤高の生き様を感じさせた。俺は「船頭」からいくつかの人生訓を聞いた。52である俺の人生はこれからが大事なのだという。特にこれからは若い人間の話に耳を傾けること。それが幼くても言い訳でも聞くに値しなくてもまず聞こうとすることが大切なのだそうだ。文字にすると別に目新しい話ではないが、話というものは誰がそれを言うかで価値を持つものだ。…もう一つ印象に残っているのは「ホタテ御殿」の話である。オホーツク海沿岸の町を走っていると、意外なことに新しく綺麗な住宅が目に付く。オホーツクの漁師は豊富な「ホタテ」資源効果で全般的に裕福なのだそうだ。「大学出たってろくな仕事もねえ時代にここらじゃ若い漁師で1000万稼いでるのはざらなんだ」と言ってい
た。
写真2は網走監獄博物館で観た現在使用されている独房である。かつて重罪犯を収容した網走刑務所であるが、今は刑期8年以下の受刑者を収容する。鍵はかかっているが、自分の部屋より良いのではないかと思った読者もいるかもしれないが、それはあなただけではない。
写真3-4は有名な釧路湿原。俺はなぜか湿原が嬉しい。湿原を前にすると安らぐし、内側の何かが満たされる。底なし沼である可能性のある場所を探したりもする。そして某然とそれを見つめるのだ。深層心理分析ではたぶん性的願望と無関係ではないのかもしれない。