突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

オペラ座の怪人

赤坂actで大沢たかおと杏主演の「オペラ座の怪人」を観た。
歌がうまいとかうまくないとかは大切なことではなく、要するにトータルで感動があったかどうかが大事なのである。その観点でいえば、なかなかよかったと思う。数年前にブロードウェイの一流カンパニーによるものを観たが、役者の魂の入り方という点で今回の日本版は圧勝である。…ところで、20分の幕間に俺はタバコを吸った。

劇場の屋外に設けられた薄暗いちょっとしたスペースである。そこに何と助演を勤めている渡辺謙がやってきてタバコに火をつけた。娘の杏の演技が心配だったのか、表情は厳しい。しかし、何という男前、かっこよさなのだろう。俺は仕事柄、芸能人を見て驚くことはないが、こんなに圧倒的な存在感を放つ人はあまりいない。俺は彼と同い年、同じ人間でありながらなぜにここまで造作に違いが生まれるのだろうか。俺の眼高は彼の上腕部あたりにあり、俺の尻は彼の太ももあたりにあった。俺が優っているのは頭頂部が薄くないことのみだが、彼は長身なので誰も気がつかない。

ところがである。そこに居合わせた7~8人の観客たちは誰も彼に驚いた風もなく、知らない顔をしている。「あんたら本当はびっくりしたり、かっこイイと思ったりしてるんだろうがっ。だったらそういう風に彼を見たり、なかには、がんばってというような人がいてもイイじゃないか。」…俺はそう思った。
立ち去ろうとする彼のために俺はドアを引いて「どうぞ」と言った。しかし、彼は「いやいやどうぞ」と言って遠慮する。俺は「いやいやいやどうぞどうぞがんばってください」と言った。その時の彼の笑顔は忘れることができない。目だけをこちらに向けて顔全体で謝意の笑顔を作り何も言わない。男が男に向けるべき笑顔のありかたというものを見た気がした。
それ以来、俺は渡辺謙は素晴らしい人格者だと信じている。
(今回は写真はありません。)