突然の旅人

大した話でもない黒坂修のアホ旅日記

ウイグル人の誇り

俺はガキの頃から世界地図をぼんやり眺めているのが好きだった 。眺めながらその土地の景観や匂いや男や女のことを想像する。そして、なぜか俺は、トルファンとかカシュガルとか、タクラマカン砂漠とかパミール高原とか、ガンダーラとかカスピ海とか…所謂シルクロード沿道の地名が好きだった。            トルファンに滞在したのは8月26日と27日。中央アジアに位置しながら海抜ゼロメートル以下の盆地であり、そのため夏の暑さは強烈だ。最高気温が40度を下回る日はあまりなく、火焔山の麓の温度計は58度を指していた。街外れの葡萄農家には葡萄棚の下、屋外にトルファン絨毯を敷き詰めた居間や寝室がある。暑いので屋外で寝るのだ。
ある農家の入り口で写真を撮っていたら、40歳くらいの人のよさそうな小柄な主人が出てきて、「中に入って撮っていいんだよ」と身振りで示してくれた。撮り終わると、「屋外の居間」に案内され、巨大な扇風機が回り始めた。そして、背の高い息子がとれたての葡萄やスイカやハミウリを次々に運んで来る。皮のまま食べる葡萄はとにかく甘い。内陸の昼夜の温度差が果物を甘くさせるのだ。俺は、この農家は観光客相手にこういう商売もやっているのだなと思い、帰りがけに50元(650円)を払おうとすると、主人は真顔になって手を振り、受け取らなかった。後から聞いた話では、ウイグル人は、外来者をもてなすことが誇りなのだそうだ。彼等は、通りがかりの何処から来たかもわからない外国人に、ニコニコしながら果物を振る舞い、見送りまでしてくれる。見ず知らずの他人からの何の打算もない好意というものを長年体験していない俺にとっては、感動的な驚きであった。彼等はもちろん裕福ではなく、クーラーもパソコンも持っていない。しかし、にこやかで振る舞いは自信に満ちていた。